夜ふかし録

クラリネットの条件検討

このブログについて

無防備なまでに明るくデリカシーのない音、

鮮烈で毅然とした音、

非常にふくよかでやわらかい音……

クラリネットの音のパレットは非常に広い。そのため、クラリネット奏者は音色に強くこだわるが、その道は平坦ではない。リードなどの仕掛けは音色を大きく左右するが、仕掛けの準備に費やす時間とコストはできるだけ短くしたい。

手に入りやすい道具で思い描く音色を実現するための条件検討の記録です。

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A管クラリネットの攻略法

15年くらい前に初めてA管クラリネットを手にとってしばらくしたところで、B管との微妙なちがいに戸惑った。この違いはとても微妙なのだけど勝手に消えてくれるわけではなかった。なんか変だなという感覚が時々自分を深刻に困らせた。

 

プロはもちろん、アマチュアでも上手にこのA/Bの微妙な違いを乗り越えてしまう人はたくさんいると思うが、勘の鈍い私はけっこう長く引きずってしまった。でも今はほぼ乗り越えたと思うので、15年くらい前の自分に最短コースを教えてあげるつもりでこのメモを書いておく。

といっても、難しいことはない。

 

A管で全部練習しよう

 

これに尽きる。

ロングトーン、スケール、練習曲すべてをA管でやる。B管を出す前にA管を出して基礎練習を全部やる。もしお金に余裕があればリードとマウスピースもA管で選ぶといい。

A管をB管のように吹けるようにするのではなくて、あなたのB管の吹き心地をA管で再現できるようにするのではなくて、A管クラリネットと本気で付き合ってみる。A管クラリネットの感覚に慣れること。[ここは特に個人的な感覚だが、A管の"抵抗感"をねじふせようとしないこと。フルートの音を出すときのように、あるいは空の牛乳瓶に息を吹いて音を鳴らすように、A管クラリネットに息を吹いて響かせる。] A管が長いのではなくB管が短いと感じるようになってきたらたぶん、軌道に乗ってきている。そして、A管の日々を過ごしたあとには、きっとB管も少しだけ上手に吹けるようになっているのではないかと思う。

 

安定性と柔軟性のはざまで

Apple musicのような定額サブスクストリーミング配信は音楽好きの生活を豊かなものにしてくれた。

メジャーなレーベルの作品が聴けるのはもちろんだが、インディーレーベルその他マイナーな音源にアクセスできるのはとても素晴らしいことです。

たとえば海外のコンクールで優等賞をとった若いクラリネット奏者の受賞記念アルバムだとか。こういったものがすぐ聴けるのはとても豊かなことだと思う。

 コンクール受賞者なので当然とても素晴らしい演奏なのだが、既存のメジャーレーベルの作品と違ってレコーディングの水準で良くも悪くも作り込まれていないのも興味深いポイントだ。音楽の流れに大きく影響しないちょっとした音ミスなんかはそのまま配信されていたりする。ライヴ感がありますね。そういう音源を聴いていると、音が少しばかりひしゃげたり均一さが失われたりするとその瞬間は「あっ」と思ったりするが、次の瞬間には、大事なことはそんなことではないと思い直し、ひしゃげるような柔軟な演奏をしていることにこそ魅力があったり、はたまたそれでもやはり安定性にも魅力があるな…、など、柔軟性と安定性の切ないせめぎ合いに思いを馳せたりする。

柔軟性、安定性は、仕掛けによってどちらを重視するか決めることもできる。極端なところではエーラー式やウィーン式の楽器と、ベーム式の楽器とでは、おそらくベーム式のほうが柔軟性は総じて高いだろう(単に演奏者の傾向の違い(エーラー式の奏者はドイツオーストリア系が多いだろう)を聴いているだけなのかもしれないが…)。ベーム式に限っても、マウスピースや楽器のメーカーにより無視できない傾向の違いがあるのではないか。

自分が魅力を感じる演奏は何が魅力になっているのか、を考えることで、奏法についても仕掛けについても芯を食ったアプローチができるのだろうと思う。

読書はスピードが肝心

文章を読むとき、しっかり内容を理解したいためにじっくり時間をかけて読むのは、あまり意味がないと思う。かといって速いほどいいということではなく、テンポよく読むこと、おおむね一定の速さで読み続けることが、いわばコツなのかもしれません。

気合を入れて、一字一句漏らさず読むぞ!という気持ちで精密にゆっくり読もうとすると、そもそも読み通せない。それでも目的を果たせれば問題ないけど、往々にして必要な情報を得ることもできずに挫折することがしばしばです(自分の経験では)。

多少ザツでも、決めたテンポを守って区切りのいいところまで読み通すような読み方が大切なんだと思います。感覚的にはmoderatoからAllegrettoくらいの速さがしっくりくる。

「読書術」なんて呼ぶとなんだか特別な技術のように感じられるけど、読書はじっさいにひとつのメソッドなのでしょう。

感覚を言葉にするのはむずかしい…けど

前にも書いたけど感覚を言葉にするのはむずかしい。

「RCはまるく濃ゆい音がでます」

「R13は芯のある輝かしい音色です」

という表現をたとえば5人の人が読んだとき、5人が想像する音はだいぶ幅広いのではないかな。

商品の紹介文であれば、あまりマイナスイメージになることは書けないし、マイナスではなくとも使いづらい表現というのもあると思われる。

「まろやか」「太い」といった表現はクラリネットの音色としてよいイメージがある。

「鋭い」「細い」といった表現は、「まろやか」「太い」に比べるとピーキーな特徴で、販促の文言としてはあまり無難ではないように思われる。

そうなると、商品紹介に使われる語彙は限られてくるし、結果的にどの商品の紹介も似たような表現になってくるのも道理かなと思う。

 

コーヒー豆を買うときにも似たような現象にぶつかる。

 

これは商品紹介に関しては、仕方ないところがあると思う。

ただ大事なのは、同じ特徴には同じ表現を一貫してつかうこと、相反する特徴を同じ言葉で表現しないこと、なのではないか。

まったく反対の性格をもつモノに同じ褒め言葉を使ってしまうと、買い手は混乱するから。

ミンコフスキ/OEKのベートーヴェン

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約1ヶ月ぶりのサントリーホールへ。

ミンコフスキがどんな指揮者か、久しぶりすぎて正直忘れてしまっていた。オーケストラは管楽器を中心にここ数年人のいれかわりがあり、東京公演ということもあってかエキストラも多かったが、それにも関わらずOEKらしい美しさを感じた。

前半の田園、後半の5番ともに、甘くない速さが強烈な印象を残す演奏会だったが、5番の2楽章に安心する心地で聴き入った。

ふと思い出したがミンコフスキは2012年にマメールロアを聴いたのだった。

青箱再考

whenlitesrlow.hatenablog.com

前回の記事で、(B40ライヤーにくらべて)B40は発音のしきいが掴みづらいと書いた。

この特徴をカバーするリードはバンドレン青箱やダダリオレゼルヴの青といった「青箱」たちなのではないかと思う。

これらのリードは、リード先端部(tip)が薄くつくられていて、レスポンスが良いことが長所に挙げられている。

長年にわたって高い評価を得ている一番幅広く使われているリードで、どんなスタイルの音楽にも合います。主な特質は、全音域にわたりレスポンスが素晴らしく、最高音のピアニッシモでのアタックも可能です。柔軟なので、音程のインターバルが大きい場合でも音が豊かで、サウンドの芯と輝きを持ちながら、レガートやスタッカートが楽にできます。バンドーレンリードの折り紙付きです。

(バンドレン製品情報ページから引用、2024年3月14日閲覧)

・音の立ち上がりを向上するために、アンファイルドカットからファイルドカットへ変更しました。
・リード自体に厚みをおさえ、まとまりのある音色に仕上げました。
・カット部分は短めで、低音から高音まで均一に鳴らすことが可能です。
・先端の厚みをおさえ、レスポンスの良さを追求しました。
・高品質リードでありながら、初心者にもお求めやすい価格に設定致しました。

(ダダリオレゼルヴの製品情報ページから引用、2024年3月14日閲覧)

 

ダダリオレゼルヴの青とバンドレンの青を比べてみる。

レゼルヴは、謳い文句どおりとてもレスポンスがよく、発音ポイントはとてもつかみやすい。音色は、やや淡白かもしれない。色でいうと、ほんの少し緑~青味のかかった白。

一方、バンドレンは、個体差がそれなりにあり、発音ポイントがやや不明瞭なリードもあるのは欠点ともいえる。音色は明るいなかにもただ明るいだけではなく、ほんの少し濃淡のついた音色を感じる。色でいうとクリーム色がかった白とでもいうか。

バンドレンの青、銀(V.12)、黒(ルピック)、水色(V21)、ダダリオの青、黄、紫と、手に入りやすいものだけ思い浮かべてもいろいろな組み合わせがあるが、こうして改めて青箱を手に取ってみると、バンドレンの青は絶妙なバランスをもった製品だと感じる。

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