夜ふかし録

クラリネットの条件検討

このブログについて

無防備なまでに明るくデリカシーのない音、

鮮烈で毅然とした音、

非常にふくよかでやわらかい音……

クラリネットの音のパレットは非常に広い。そのため、クラリネット奏者は音色に強くこだわるが、その道は平坦ではない。リードなどの仕掛けは音色を大きく左右するが、仕掛けの準備に費やす時間とコストはできるだけ短くしたい。

手に入りやすい道具で思い描く音色を実現するための条件検討の記録です。

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ミンコフスキ/OEKのベートーヴェン

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約1ヶ月ぶりのサントリーホールへ。

ミンコフスキがどんな指揮者か、久しぶりすぎて正直忘れてしまっていた。オーケストラは管楽器を中心にここ数年人のいれかわりがあり、東京公演ということもあってかエキストラも多かったが、それにも関わらずOEKらしい美しさを感じた。

前半の田園、後半の5番ともに、甘くない速さが強烈な印象を残す演奏会だったが、5番の2楽章に安心する心地で聴き入った。

ふと思い出したがミンコフスキは2012年にマメールロアを聴いたのだった。

青箱再考

whenlitesrlow.hatenablog.com

前回の記事で、(B40ライヤーにくらべて)B40は発音のしきいが掴みづらいと書いた。

この特徴をカバーするリードはバンドレン青箱やダダリオレゼルヴの青といった「青箱」たちなのではないかと思う。

これらのリードは、リード先端部(tip)が薄くつくられていて、レスポンスが良いことが長所に挙げられている。

長年にわたって高い評価を得ている一番幅広く使われているリードで、どんなスタイルの音楽にも合います。主な特質は、全音域にわたりレスポンスが素晴らしく、最高音のピアニッシモでのアタックも可能です。柔軟なので、音程のインターバルが大きい場合でも音が豊かで、サウンドの芯と輝きを持ちながら、レガートやスタッカートが楽にできます。バンドーレンリードの折り紙付きです。

(バンドレン製品情報ページから引用、2024年3月14日閲覧)

・音の立ち上がりを向上するために、アンファイルドカットからファイルドカットへ変更しました。
・リード自体に厚みをおさえ、まとまりのある音色に仕上げました。
・カット部分は短めで、低音から高音まで均一に鳴らすことが可能です。
・先端の厚みをおさえ、レスポンスの良さを追求しました。
・高品質リードでありながら、初心者にもお求めやすい価格に設定致しました。

(ダダリオレゼルヴの製品情報ページから引用、2024年3月14日閲覧)

 

ダダリオレゼルヴの青とバンドレンの青を比べてみる。

レゼルヴは、謳い文句どおりとてもレスポンスがよく、発音ポイントはとてもつかみやすい。音色は、やや淡白かもしれない。色でいうと、ほんの少し緑~青味のかかった白。

一方、バンドレンは、個体差がそれなりにあり、発音ポイントがやや不明瞭なリードもあるのは欠点ともいえる。音色は明るいなかにもただ明るいだけではなく、ほんの少し濃淡のついた音色を感じる。色でいうとクリーム色がかった白とでもいうか。

バンドレンの青、銀(V.12)、黒(ルピック)、水色(V21)、ダダリオの青、黄、紫と、手に入りやすいものだけ思い浮かべてもいろいろな組み合わせがあるが、こうして改めて青箱を手に取ってみると、バンドレンの青は絶妙なバランスをもった製品だと感じる。

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久しぶりにB40


久しぶりにB40とバンドレントラディショナル3番の組み合わせ。

B40ライヤーでつかんだ発音時の圧の感覚をB40でも捉えるよう心がけて、無駄な・過剰な圧力をかけないように。コンパクトに吹ければ、B40は吹いていて気持ちいいマウスピースである。

レゼルヴ(青)とバンドレントラディショナルはよく似ているが、レゼルヴの方がよりシンプルな音で、バンドレンはレゼルヴよりは芳醇というか奥深さのある音色だと感じる。良し悪しというより、場面や好みによりそれぞれの持ち味になる性質だろう。

 

久しぶりに吹いてみると、B40はピークを捉えづらい(よくいえばピークがなだらかな)マウスピースだと感じた。

これは、よく言われる「B40は音がぼやけがち」という話と繋がっていると思う。

ピークを見失って、よくないリードを使いつづけると、奏法的に袋小路に入ってしまうかもしれず、よくよく注意が必要だと思う。

カディッシュ

久しぶりに演奏会へ。たまたま時間があき、たまたま興味をそそる演奏会の情報が目に飛び込んできたので、当日券をとって聴くことができた。

 

演目はショスタコーヴィチの第九交響曲と、バーンスタイン交響曲「カディッシュ」。演奏は都響とインバルとのコンビによる。

 

チケットを買うまで私の関心は前者のショスタコーヴィチにあった。この演奏はおおむね期待どおり、モダンな都響の音色が十分に発揮されていて満足。

しかしこの演奏会の白眉は後者のバーンスタインだった。カディッシュを聴いたのは今回が初めてだった。この日の演奏はかなり切迫した、凄みのある雰囲気を伴っていたが、……これは、2023年10月以降の世界情勢を反映していると言っていいのだろう。プログラムが決まったのは1年以上前のはずだし、その間に使用するテクストが変更になっていることも含めて、偶然のなせる業だ。

 

音楽の響きは、メシアンのように前衛的な響きがあったり、12音のようなところがあったり、変化に富んでかつ調和がとれているカラフルな響きの作品だと思った。ただ少なくとも今回の演奏に関しては、テクストのもつメッセージの強さ(そして語り手の強さ)が一歩前に出ていたように思う。

 

こういった響きの豊かさは録音には入りづらいような気がする。たとえば冒頭の声楽の伴奏をともなう語り手の語りのような場面。このような作品の魅力を十分に理解するには、演奏会場に行くほかないのだと思います。

酸っぱいコーヒーの良さ

コクがあって苦みがあって、酸味はそんなに多くないのが日本でよく飲まれていて人々が想像するオーソドックスなコーヒーだと思う。これは深煎りの豆が多数を占めているだろう。焙煎後の豆が濃い茶色~黒っぽい色だ。

 

浅煎りの豆は色が明るい茶色だったり赤っぽかったりする。

浅煎りの豆で、抽出に無頓着に淹れると、けっこう酸っぱくなってしまうことが多い。

自分もそうで、酸っぱいコーヒーは苦手で、浅煎りの豆のおいしい淹れ方というのがわからなかったので、避けていた。というか、単純に浅煎りの豆が好きな人はあの酸味が好きな人で、完全に好みが違うので分かり合えないのだ、と思っていた。

ブルーボトルコーヒーは、浅煎りの豆を多くつかうサードウェーブコーヒーの有名なコーヒーチェーンなのだが、そういうわけでスタバ的な苦みやコクを中心とした味を想像していくとびっくりする(私は初めて行ったときびっくりした)。

 

 4-5年ぶりにブルーボトルコーヒーにいったら、浅煎りのコーヒーの何がよいのかがすんなり理解できて、別の意味でびっくりした。

「浅煎りのコーヒーはとにかくすっぱい」という誤解があった。

浅煎りの豆だからといって酸っぱいことが必ずしも良いことではない。酸っぱすぎるのは淹れ方が不適切で、豆の本来のおいしさを引き出せていないだけかもしれない。

そのうえで、浅煎りの豆では抽出時間や湯の量を厳密にすることで、繊細な味を引き出すことができるのだった。

コクとか苦みはコーヒーの味のごく一部に過ぎず、別の層には繊細な酸味や甘みの層が重なっていて、上手に淹れるとこういった多次元の味が折り重なって立体的=奥が深い味、をつくることができる。少し大げさにいうとこういうことだと思う。

 まぁたぶん、深煎りの豆も本来はそうやって気をつかって淹れるのが正道なのを、私が無知だから適当に淹れていて、でも深煎りだと酸味が出づらいからなんとなく飲める味になっていただけ、というのが真相なのだけども。

 

結果、奥深い味をもつ浅煎り豆を上手な人に淹れてもらって(=お店で)飲む、ということににわかに目覚めてしまいました…。

こういうお店、いわゆるサードウェーブ系のコーヒーショップは、バリスタの動きが意味ありげだったり、ドリッパーとかメジャーとかのその他小道具がいちいちミニマルデザインだったりとかで、なんとなく「けっこうなお点前で」という空気を醸している。

 

親しんできたつもりのものでも、全然違う顔をもっているものなんだな、と思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

リガチャーを変える

12月の日記に、久しぶりにToscaを吹いたら音がびりびりする、と書いた。

このときのリガチャーバンドレンオプティマムだった。けっこうずっしりと重い金属製のリガチャーだ。

ふだん使っているのはビュッフェクランポンの純正リガチャーで、金属製だが薄く軽く、しかも自分のはもう10年くらい使っている。

ビリビリする音の原因は(1)奏者がヘボい(2)ToscaとRCの違い という2つのほかに、リガチャーの違いもあるかもしれない…と思い、オプティマムをRCに組み合わせて使ってみた。

すると、なんとなく音の重心が下がる感じというか、音に重みがでるというか、そういった印象の変化を感じた。

 

リガチャーはけっこうお値段が高い。高いものは数万円するし、いわゆるひとつの「沼」なので、できればリガチャーに関してはあまり考えたくないと思っている(沼はマウスピースとリードだけで十分なので…)。

だから、絶対いいのはわかっているけどシルバースタインだとかJVLみたいなナウくてイケてるリガチャーも含め、いっさい寄り道せず、クランポン一択で10年以上やってきた。

 

だが今回、このように音に変化が出るのであれば、まったく選択肢を持たないのは損だと思った。

多分、高いものを買う必要は必ずしもなく、金属/革、順締め/逆締め、重い/軽い、くらいのパラメータでいくつかのパターンを持っておけば、道具で音をまとめる方策が得られやすくなるかもしれない…。

ということを認識した1月でした。