夜ふかし録

クラリネットの条件検討

騎士団長殺し

読みました。もともと村上春樹は好きで、特に『ねじまき鳥クロニクル』は村上春樹を好きでない人も読んでおいていい作品だと思っています。

 

2000年以降の作品については、『海辺のカフカ』『アフターダーク』はよかったが、『1Q84』は???というのが率直な感想。『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』はよかった。

今作は自分にとってはよい作品だった。

よかった点;

  • 絵描きの話という着眼点:絵を描くことは観ることとよく言われる。人がものや他の人を見るということについて繰り返し述べられていると思う。また、絵を描くことは自分にとっては身近なことではないので、油彩の具体的な描写は非日常感があり、新鮮だった。
  • プロットが良心的:これは人によって意見が分かれると思う。今までの村上春樹の長編と違うのは、主人公がけっこう救済されているらしいところか。『ねじ巻まき鳥』と比べると、明らかに『騎士団長殺し』の主人公のほうが物語の終盤で救われているのでは?いや、『ねじまき鳥』もけっこう救われてるか…。『ねじまき鳥』以降定番の道具立てとなっている「穴ぬけ」のエピソードも、もはやはいはいという感じで受け入れられるので、このあたりの作品を読んだことのある人には了解可能性がある(あるいは免疫がある)のではないかと思う。めちゃくちゃ新しいことはしていない、とも言えて、その点では奇抜さとかラディカルさを求める人には物足りないかも?(『1Q84』の月が2つある世界だとか、「まざ」「どうた」みたいなものは出てこない。まぁ、「騎士団長」は奇抜ではあるけど、受け入れやすいと思う。)この視点で逆に『1Q84』を読み直してみようかと思う。
  • ドラえもんみたいなやつを出してくるのはズルい:「騎士団長」はドラえもんとか、『寄生獣』における「ミギー」みたいな登場人物に思えた。そういうのを今更出してくるのはどうなの、と正直思う。もっと深く読み込めば、ただのドラえもんではないのだと思うけど…
  • 帰ってきた「鼠」:「雨田政彦」という登場人物は、初期作品における「鼠」が、自殺せずに済んだパターンの表現なのではないか?と思った。主人公の直接の父親ではなく、友人である「雨田政彦」とその父との関係が出てくる。そして雨田政彦は父親とぶつかるというよりは、うまく受け流して生きてこれた人であり、その点が「鼠」と違う。
  • 13歳女子に対する視線が気持ち悪い:これは正直気持ち悪いと思う。13歳女子が相手ではないけど、性的描写は本当にあれだけ必要なのだろうか?とも思う。ためしに、性的描写なしバージョンを読んでみたい。(たしかに印象は変わるだろうな…説得力も)

 

次作も楽しみに待ちたい。次作は、問題提起をしてほしいなと思う。