初期臨床研修マッチング、選考試験が一段落。
4ヶ月近く封印していた楽器ケースを開けて、すっかり鈍ったカンカクを取り戻すべくにわかに練習している。
…ある病院の選考試験、面接でこのようなやり取りがあった。
面接官「…君は音楽が趣味のようだけど、医者になったら趣味はどうするの?」
自分「(正直なところを言っておこう)音楽は自分にとって大切な趣味ですので、可能な限り続けていきたいと思っています。もちろん仕事が優先ですし、特に研修医は私生活を犠牲にしてでもできるかぎり多くの症例にあたって勉強しなければならないと思います」
面「そんなことはね、仕事のために趣味を犠牲にするなんてことは当たり前だよ、君ぃ。医者になってもみんなで集まってオンガクやるなんてことはないんだろうね?できないよ?」
自分「(言い方がまずかったか、ゆとりだと思われちゃったかな)もちろんそういったことをしようとは考えておりません。やるとしても個人的に、週末の数時間だけのつもりです…」
仕事より趣味を優先する場面は有り得ないということを最初の回答で示したつもりだったのだが、伝わらなかったようだ。
医師の一般的なライフスタイルでは、オーケストラや吹奏楽のコンスタントな活動にコミットするのは難しい。自分が求める水準でオーケストラの活動に参加しようとすれば、一般的な医師の働きぶりに照らせば「遊んでないで仕事しろ」というような仕事ぶりになってしまうだろう。それは重々わかっているので、少なくとも初期研修中にオーケストラをガッツリやろうという気など毛頭ないのだ。
そもそも医師という仕事は、自分にとってクラリネット以上に大切な芸事だと思っている。
芸事というと、遊びのような響きがするかもしれないが、芸事ほどその人を映す鏡はない。踏襲すべき型があり、それを達成し、先人が築き上げてきた成果を世の中に活かす。さらには、自分なりの工夫を施す。全ては患者さんのため、そして自分の為でもあると思う(エゴイズムは嫌われがちだが、自分は、一度でもエゴイズムに立脚しない行いが信用に足るとは思えない。もちろん、一人よがりでは永遠に低次元にとどまることになるのだが…)。
その一生をかける芸事の、最初の大切な数年間を、どうして趣味のために犠牲にしましょう。
そこまで愚かではないつもりなのだけれど。
オンガクという趣味と、イガクという仕事の、もっともよいバランスを見つけられたらいいのだけれど。