夜ふかし録

クラリネットの条件検討

最近読んだ本

 

 この記事は数年前に下書きして、放置してあったものにごく短く書き足したものです。

内海健著。
精神科がらみの書籍を読むのは趣味であり、精神疾患の診療を本業にしようとは思っていません。が、もともと文系寄りの人間でもあるし、ひと昔前の(という書き方は失礼ですが)精神病理の本を読むのは非常に面白い。とはいっても、ガチガチのほとんど哲学みたいなものはあまり腑に落ちない(何より、経験がないので)ので読みませんが。
 
ここ数年くらいで、「大人の発達障害」が注目されています。単純に、小児期に顕在化した発達障害の人が年齢を重ねた場合のみならず、小児期にはあまり目立たなかった(日常生活で問題とならなかった)が、青年期ぐらいから徐々に顕在化したパターンというのがあって、それらが今まで統合失調症とか双極性障害と診断されてきたのではないかとさえ言われています。(今まで統合失調症の診断を受けた人々の一部に、成人の発達障害例が紛れているのではないかということ)
 
宮岡等さんらの「大人の発達障害ってそういうことだったのか」など、自閉症スペクトラム障害(ASD)に関連する書籍も増えてきているようです。
 
古典的な自閉症アスペルガー障害(自閉症スペクトラム)の病理というのは、「サリーとアンのテスト」や「こころの理論」を用いて説明されます。これはたとえば医学部の精神科講義などで必ず紹介されるセオリーです。
この本で著者は、「こころの理論」などのこれまで自閉症圏の精神病理を説明するとされてきた考え方には足りないものがあるとしています。さらに、(自閉症圏にとどまらず)ヒトが生まれ定型的に生育していく過程で、「どのように自己を獲得するか」について考察しています。そのなかで<φ>というアイデアを提示し、これまでも指摘されている自閉症圏の「三つ組の障害」についても丁寧にその成り立ちを論じています。
つまり、自閉症を論じる前に我々のこころとは何か?という問題提起をしなおし、その結果これまでより広い射程をもつ説明を得ている、、(と、私は思いました)。
 
哲学のような考え方も用いてはいますが、軸足は精神科臨床にあり、要所で挟まれるvignette(短い症例提示)も著者の論を理解する上で助けになっています。
 
 
 

 

 

 

abさんご・感受体のおどり (文春文庫)

abさんご・感受体のおどり (文春文庫)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/07/10
数年前の芥川賞受賞作です。
これは特殊な文体で横書き・ひらがな多用。
反芻するような時制で話が描かれており、スラスラと読むのを拒むような本ですが、読み心地は悪くなく、独特の味わいがあります。
折に触れて読み直しています。